G7を主要国首脳会議と呼ぶインチキに抗して、新しい世界主要国会議を夢想してみた
G7広島サミットが5月に開かれた。あまり関心もなかったが、TVは観ないし最近はラジオもあまり聞かない私も新聞は読むので、G7首脳らが原爆資料館に行ったことやゼレンスキーが来たことや広島ビジョンなるものが発表されそれに対する批判があることは知っていた。それらのことについて考えたことも少しあるが、会議の開催前に浮かんでいた「そもそもG7って何だろう」という疑問がよみがえったので、今回はそのことを書いてみる。
G7サミットは「主要国首脳会議」という呼び方もあるので、世界の主要国が集まって会議をやるということだろうと漠然と思っていた。しかしそうだとすると、GDP世界第2位の中国が入っていないし、人口世界一になったインドも入っていないのはおかしい。世界の主要国の集まりじゃないじゃん。「主要国首脳会議」なんて呼ぶのはインチキだと思った。
しかしこう考えたことの一端は、実は私がG7の「G」がGlobalの略だと誤解していたことにあった。G7とは「Group of Seven」で、世界の主要国ということではない。単に「7国からなるグループ」という意味だ。じゃあどんなグループなんだ。参加国のリストを見てすぐに浮かんだのは、NATOの主要国に日本を加えたグループだろうということ。NATOは軍事同盟だということを考えると、「ロシアと中国に対抗する軍事グループの主要国」と言った方がよいかもしれない。
G7の意味を誤解したのは私が悪いが、「主要国首脳会議」と言われて「世界の主要国」というイメージを持つのはきっと私だけじゃないだろう。そうだとすれば、「主要国首脳会議」と呼ぶのは実際と違いことをイメージさせようとする企みであり、やはりインチキだと言いたい。
G7を「主要国首脳会議」でなく「7か国首脳会議」と呼べと言うのであれば、話はここで終わる。しかし、私の思いはG7を離れて、世界の主要国の会議を考えるとすればどの国に参加してもらうのがよいだろう、ということに移った。それは実現の可能性ということは度外視した夢想に過ぎないが、そういう「お遊び」をやってみてもいいかと思った。
●何故、世界主要国会議を夢想するのか
世界の国が集まって起こっている問題や今後の課題について話し合う場としては、様々なテーマ別に色々な国際会議があるが、一番重要で幅広く包括的な話し合いの場としては国際連合(国連)がある。国連の最終意思決定機関は国連総会と安全保障理事会だ。安全保障理事会の決議は各加盟国に対する強い拘束力を持つが、常任理事国に拒否権があるため、起こっている問題に対して有効な役割を果たせていないのが実情だ。一方、国連総会の決定(決議)は各加盟国に対する大きな影響力を持つものの、国連組織の予算や人事に対する権限を除いて勧告にとどまる。
国連総会では加盟国がそれぞれ一票づつの議決権を持つという民主的な制度で運用されているが、一国内の地域格差より遥かに大きな加盟国間格差がある下では、賛成する国の数だけで決定しても世界の現状を変える強い力はなかなか発揮できないと思う。逆に言えば、例えば経済的な問題について世界的に大きな影響力を持つ数少ない国々の間で合意が得られれば、その問題について現実的に世界の状況を変えることが出来るということだ。
一つの方向性としては、国連を改革して制度を変えるということがあるが、国連は軍事面での安全保障理事会の強い権限を例外して基本的には全加盟国平等の理念に基づいて設立されているので、世界的に大きな影響力を持つ国だけでものごとを話し合うということを実現するのは、私は非常に困難だと思う。それで、国連とは別の世界主要国会議を夢想したわけだ。もちろん、そんな会議を開いても参加国間で激しく意見が対立する問題では合意を得ることは難しいだろう。しかし、それでも安全保障理事会のような拒否権はない会議で、世界が関心を持って見つめる中で話し合うことには意味があるだろうと思った。
●経済的・軍事的観点から世界主要国会議を夢想する
世界主要国会議を考える場合に、どういう観点から主要国を選ぶか。G7が30か国もあるNATO加盟国のうちで6国を主要国としているのは明らかに経済的・軍事的観点からだと思う(もちろんG7の歴史的経緯があるがその経緯は経済的に大きな国ということ)。G7そのものには批判的なことを書いたが、その主要国選びについては妥当性があると思った。
それで、世界のGDP上位の7国を選び、それが軍事力大国もカバーすることになっているかチェックすることにした。
2022年名目GDP(IMF統計)の上位7国は、1位アメリカ、2位中国、3位日本、4位ドイツ、5位インド、6位イギリス、7位フランスだ。これをG7参加国と比べると、カナダとイタリアが外れて、代わりに中国とインドが入っている。このGDP上位7国を軍事力の面(Global Firepowerが発表した「2023年度の軍事力ランキング」による)から検討すると、軍事力2位のロシア、6位の韓国、7位のパキスタンが抜けている。そこでこの3国がすべて含まれるところまで、GDP上位国のリストを拡大してみることにした。結果は以下。
GDP順位 国 軍事力順位 GDP順位-軍事力順位
1位 アメリカ 1位 ±0
2位 中国 3位 -1
3位 日本 8位 -5
4位 ドイツ 25位 -21
5位 インド 4位 +1
6位 イギリス 5位 +1
7位 フランス 9位 -2
8位 ロシア 2位 +6
9位 カナダ 12位 -3
10位 イタリア 10位 ±0
11位 ブラジル 21位 ±0
12位 オーストラリア 16位 -4
13位 韓国 6位 +7
・・・
41位 パキスタン 7位 +34
パキスタンがGDPが少ない割に非常に大きな軍事力を持っている。パキスタンはカミールを巡ってインドと敵対関係にあり両方とも核兵器も持っているからなあと納得してしまった。
GDP順位と軍事力順位の差を見ると、(大雑把ではあるが)GDPに対して大きな軍事力の国と小さい国がかなり明瞭にわかることに気付いて、上のリストには「GDP順位-軍事力順位」を付記した。プラスはGDPに比べて軍事力が大きいことを示し、マイナスは逆に小さいことを示す。パキスタンの他に、GDPに比べて軍事力が大きい国は(+1という小さな違いを除けば)ロシア(+6)と韓国(+7)だ。ロシアは冷戦時代の米ソ対立から米ロ対立に変わっただけで軍事大国であることをやめていないということだし、韓国は北朝鮮と対峙しているため大きい軍事力を持っていることはうなずける(北朝鮮はGlobal Firepowerのランキングにはない)。一方、GDPに比べて軍事力が少ないのは(-1というのを除けば)、ドイツ(-21)、日本(ー5)、カナダ(-3)、フランス(-2)だ。ドイツの軍事力がGDPに比べて非常に小さいのが目立っている。日本は憲法で戦争放棄して戦力を持たないと言っている国なので、GDPに比べて軍事力が小さいのは当たり前でむしろ軍事力順位で世界8位というのがおかしいくらいだ。カナダとフランスは概ねGDP相当の軍事力といったところか。
ちょっと横道にそれたが、話を戻す。GDP順位でパキスタンまで含めると41か国になりちょっと多すぎるような気がする。せめて20か国くらいにしたいなと思った。そのとたん、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)というのがあることを思い出した。
G20は、「アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、韓国、南アフリカ共和国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、英国、米国の19ヶ国に加え、欧州連合(EU)が参加」とのこと。えっ、EUという地域グループを含めて20なのか。なるほど、そういう手があったか。地域グループの形でリストから外れた国を間接的に参加させるという方法だ。これは方法は使えそうだと思ったが、先ずはG20に参加している19国と上記のGDP上位13国の過不足をチェックした。
GDP上位13国はすべてG20に入っている。逆にG20参加国でGDP上位13国に入っていない国はどこか。アルゼンチン、インドネシア、メキシコ、南アフリカ、サウジアラビア、トルコの6か国だ。では、これらの6か国が出来るだけ入るようにGDP上位国のリストを拡張してみよう。今度は軍事力は省いて(上記リストで軍事力10位までの国はすべてカバーしているので十分だろう)、GDPの額と世界に占める割合及びその累計を書く。
GDP順位 国 G20参加国 GDP[百万US$] 対世界比率 同左累計
1位 アメリカ ◎ 25,464,475 25.4% 25.4%
2位 中国 ◎ 18,100,044 18.1% 43.5%
3位 日本 ◎ 4,233,538 4.2% 47.7%
4位 ドイツ ◎ 4,075,395 4.1% 51.8%
5位 インド ◎ 3,386,403 3.4% 55.1%
6位 イギリス ◎ 3,070,600 3.1% 58.2%
7位 フランス ◎ 2,784,020 2.8% 61.0%
8位 ロシア ◎ 2,215,294 2.2% 63.2%
9位 カナダ ◎ 2,139,840 2.1% 65.3%
10位 イタリア ◎ 2,012,013 2.0% 67.3%
11位 ブラジル ◎ 1,924,134 1.9% 69.3%
12位 オーストラリア ◎ 1,701,893 1.7% 71.0%
13位 韓国 ◎ 1,665,246 1.7% 72.6%
14位 メキシコ ◎ 1,414,101 1.4% 74.0%
15位 スペイン × 1,400,520 1.4% 75.4%
16位 インドネシア ◎ 1,318,807 1.3% 76.7%
17位 サウジアラビア ◎ 1,108,149 1.1% 77.8%
18位 オランダ × 993,681 1.0% 78.8%
19位 トルコ ◎ 905,527 0.9% 79.7%
20位 スイス × 807,234 0.8% 80.5%
この2か国でGDPは全世界の80%をカバーしていることがわかる。G20に入っていてここで漏れているのは、アルゼンチン、南アフリカなので、これと軍事力の大きいパキスタンの3か国には配慮した方がいいと思った。
GDP順位 国 G20参加国 GDP[百万US$] 対世界比率 同左累計
23位 アルゼンチン ◎ 632,241 0.6% -
38位 南アフリカ ◎ 405,705 0.4% -
41位 パキスタン × 376,493 0.4% -
この3か国は、G20に入っている地域グループの欧州連合(EU)と同様の手を使って、単独ではなく、アルゼンチンは米州機構(OAS)として、南アフリカはアフリカ連合(AU)として、パキスタンは南アジア地域協力連合(SAARC)として入ってもらおう。
この結果、「世界主要国会議」はGDP上位20か国と4組織(EU、OAS、AU、SAARC)となった。
●人口の観点から世界主要国会議を夢想する
ここまで、経済的な影響力を中心に考えて「世界主要国会議」をGDP上位20か国と4組織(EU、OAS、AU、SAARC)が参加する場としたが、これでいいのかという疑問が生じた。
究極の理想として「世界が一つの国になる」という考えがあると思うが、もし一つの国だとしたら「経済的な影響力を中心に考えてメンバーを選んだ会議」ということはどういうことを意味するだろう。国の問題や課題を話し合う会議を、お金持ちを中心に考えたメンバーで行うということだ。日本では、いや世界のほとんど全部の国でこういう会議が沢山行われている。しかし、それは理想的なことだろうか。歴史を遡ると、国を統治するための意思決定を行う場である国会も、お金持ちだけが参加する選挙で参加者(議員)を選んでいた。それが良くないとの認識の下、現代の民主主義国では(色んな誤魔化しがあるものの)基本的には国民一人一人が同じ権利を持つ選挙で議員を選ぶようになっている。それなら、世界の問題や課題を話し合う会議は世界に生きている一人一人が同じ権利を持つという考えで参加国を選ぶのがよいだろう。
このように考えて、今度は、人口が多い国を選び、その上で経済的・軍議的な影響力をある程度考慮することにした。
国連人口基金(UNFPA)の「世界人口白書2023」によると、2023年の世界人口は80億4500万人でランキングは次のようになっている。
人口順位 国 人口 対世界比率 同左累計 GDP順位
1位 インド 14億2,860万人 17.8% 17.8% 5位
2位 中国 14億2,570万人 17.7% 35.5% 2位
3位 アメリカ 3億4,000万人 4.2% 39.7% 1位
4位 インドネシア 2億7,750万人 3.4% 43.2% 16位
5位 パキスタン 2億4,050万人 3.0% 46.1% 41位
6位 ナイジェリア 2億2,380万人 2.8% 48.9% 31位
7位 ブラジル 2億1,640万人 2.7% 51.6% 11位
8位 バングラデシュ 1億7,300万人 2.2% 53.8% 35位
9位 ロシア 1億4,440万人 1.8% 55.6% 8位
10位 メキシコ 1億2,850万人 1.6% 57.2% 14位
11位 エチオピア 1億2,650万人 1.6% 58.7% 62位
12位 日本 1億2,330万人 1.5% 60.3% 3位
13位 フィリピン 1億1,730万人 1.4% 61.7% 39位
14位 エジプト 1億1,270万人 1.4% 63.1% 32位
15位 コンゴ共和国 1億0,230万人 1.3% 64.3% 87位
16位 ベトナム 9,890万人 1.2% 65.6% 37位
17位 イラン 8,920万人 1.1% 66.7% 43位
18位 トルコ 8,580万人 1.1% 67.7% 19位
19位 ドイツ 8,330万人 1.0% 68.8% 4位
20位 タイ 7,180万人 0.9% 69.7% 27位
21位 イギリス 6,770万人 0.8% 70.5% 6位
22位 タンザニア 6,740万人 0.8% 71.3% 75位
23位 フランス 6,480万人 0.8% 72.1% 7位
24位 南アフリカ 6,040万人 0.8% 72.9% 38位
25位 イタリア 5,890万人 0.7% 73.6% 10位
25位までとしたのは、常任理事国はすべて含めた上で切りがいい数だから(結構いい加減な理由だ)。この25か国で世界人口の70%以上になっている。またGDPの面では、1位~8位をカバーしている(8位までで全世界GDPの63.2%)。軍事力では1~7位のうち6位の韓国が抜けている。軍事的には韓国が入っていなくてもアメリカが後ろ盾なので問題なしとしよう。
ここで注目したいのは、G20にもGDP上位20国にも入っていない国が11か国(パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュ、エチオピア、フィリピン、エジプト、コンゴ共和国、ベトナム、イラン、タイ、タンザニア)もあることだ。人口ベースで世界の主要国を考えると、経済力や軍事力だけで世界を見ることがいかに偏った見方であるかがよく分かる。
G20に入っていてここに漏れている6か国(カナダ、オーストラリア、韓国、サウジアラビア、トルコ、アルゼンチン)はどうしようか。かなり独断的だが、米州機構(OAS)を加えてカナダとアルゼンチンを、太平洋諸島フォーラム(PIF)を加えてオーストラリアを、イスラム協力機構(これは地域グループではないが)を加えてサウジアラビアとトルコをカバーすることにした(韓国には泣いてもらう)。
この結果、人口を基本に考えた「世界主要国会議」は上記の人口上位25か国と3組織(OAS、PIF、イスラム協力機構)となった。
私にはこちらの「世界主要国会議」の方がよいように思えてならない。