辺民小考

世の中の片隅に生きていますが少しは考えることもあります ― 辺民小考

消費税とインボイス制度 ― その悪辣で非道な仕組み

 10月から消費税に関してインボイス制度が導入されるので、新聞各紙にもそれに関連した記事を見ることが増えた。以前、「インボイス制度の問題点についてはネット上で多くの人が語っているので、私が書く必要もない」と書いたが、家人や近くの知人に聞いてみると、自分たちに直接関係しないインボイス制度について知らないのは仕方ないにしても、自分たちがいつも負担している消費税についても全く理解していないことが分かった。実は私自身、昔は消費税のことを誤解していたので、彼らを非難することはできない。それで、かつての自分も現在の周囲の人もよく知らないのであれば、消費税について書いておくことも意味があるかと思った。また、手元の新聞を見た限り、インボイス制度の問題点と私が考えていることがきちんと書かれていないことに気付いたので、インボイス制度についても書いてみようと考えた。

 

●消費税とはどういうものか
 私の周囲の人のほとんどは、消費税とは「消費者が小売店やサービス提供店に代金を支払う時に本体価格に上乗せして支払った税金を、小売店やサービス提供店が預かっておいて後で税務署に納税する」ものだと思っていた。これは、誤解だ。この誤解は日本の消費税を「直接消費税」と呼ばれる税であると考えてしまっていることを意味する。一般に消費税と総称される税は消費者が負担する税金であることは確かだが、実は消費税には様々な課税の仕方があって、日本の消費税は「直接消費税」ではない。

 

 日本で「直接消費税」となっているのは、ゴルフ場利用税入湯税で、これはゴルフ場や温泉施設が利用者から利用料金と合わせて税金を徴収して納税するものです。日本の消費税は、商品やサービスについてこのような仕組みになっているわけではありません。消費者が誤解するのは、レシートや領収書に消費者が負担すべき消費税分の金額が表示されているからだと思います。それは小売店やサービス提供店が「税金分があるから高くなっているだけだよ」とアピールしたいからでしょうが、実際はそこに表示された税金分を小売店やサービス提供店が納税するわけではありません(このことはあとで述べます)。その意味では消費者を欺く行為だと私は思っています。

 

 では、一般的に消費税と総称される間接税のうちで、「直接消費税」ではない税は誰が納税するのでしょうか。わかりやすいのは、酒税やガソリン税で、これは国内の酒やガソリンの製造業者(または輸入業者)に課税され、その業者が税金を支払ってます。そしてその税金分を販売価格に上乗せして、卸売業者や小売業者に税金分を含んだまま次々と転売してゆくので、最終的には消費者がその税金分を負担することになります。日本の消費税はこれと同じ仕組みでしょうか。いえ、違います。

 

 一般的に消費税と総称される間接税には、製造から小売に至るすべての取引段階に課税される仕組みがあり、日本の消費税はこのタイプの税金です。これは一般的には付加価値税と呼ばれる税金で、外国の税制を紹介する時には国税庁も「付加価値税」と呼んでいます。しかし、日本の消費税を「付加価値税」と敢えて呼ばないのは、一般消費者をだまして「直接消費税」であるかのように思い込ませる策略ではないかと思います。

 

 日本の消費税が付加価値税だという意味は、製造から小売に至るすべての取引段階の事業者に対して、売上金額から仕入金額を差し引いた金額(これを付加価値といいます)に課税する仕組みだということです。そもそも事業者は売上金額から仕入金額と人件費や様々な費用を差し引いた利益に対して法人税を課税されているので、これはある意味で事業者に対する二重課税です。そんな税金を課税されるとしたら、事業者は今までと同じ利益を確保するためにその税金分を販売価格に上乗せしようとします。しかし、その事業者の仕入先の事業者も同じように考えて税金分を販売価格に上乗せしようとするので、自分が払うべき税金分を上乗せするだけでは利益が減ってしまいます。それで、事業者が納税するのは、自分が払うべき税金から仕入金額に含まれている考えられる税金分を差し引いた分だけでいい、となっています。これが、日本の消費税の基本的な仕組みです。

 

 非常にわかりにくいので、簡単な例を挙げて説明します。簡単にするため、商品の製造業者(A)と小売業者(B)と消費者(C)の間の2段階の取引形態を考え、製造業者はどこからも仕入がないものとし、消費税率は10%とします。


<消費税がない場合の取引>
  製造業者(A)  価格10,000円でBに販売
          ⇒粗利は10,000円
 
  小売業者(B)  Aから10,000円で仕入れた商品を価格1500円でCに販売
          ⇒粗利は5,000円

  消費者(C)   Bから商品を15,000円で購入

 

<消費税がある場合の理想的な?取引>
  製造業者(A)  税抜価格10,000円に税金分1000円を加算して11,000円でBに販売
          ⇒Aは税金1,000円を納税
          ⇒粗利は10,000円

  小売業者(B)  Aから11,000円で仕入れた商品を税抜価格15,000円に
          税金分1,500円を加算して16,500円で販売
          ⇒Bは消費者に税金分だと言って受け取った1,500円のうち、
           仕入価格に含まれる税金分を差し引いた500円だけ納税
          ⇒粗利は5,000円

  消費者(C)   Bから商品を16,500円で購入
          ⇒Cは納税しないが、税金分だとして1,500円負担しています

  合計納税額  Aの1,000円+Bの500円=1,500円
 
 このケースを消費税がない場合と比較すると、AもBも粗利は変わらず、消費者(C)の負担が1,500円増えていて。消費者が負担した1,500円がAとBに分割されて納税されています。このケースでは、「消費税は消費者だけが負担するもの」という一般に信じられていることと結果的に同じになっています。

 

 しかし、実際は必ずしもこのようになりません。取引における売買価格は双方の力関係に大きく影響されるからです。例えば、小売店(B)の力が製造業者(A)より圧倒的に強い場合、Aが消費税分を上乗せすることをBが認めず元の1000円でしか買ってくれないかもしれません。そして、Bが消費者に対して強い立場(値引きする必要がない)だとすれば、予定通り税抜1500円で消費者(C)に売るかもしれません。その場合には、上の取引は次のようになります。

 

<Aが消費税分を上乗せ出来ないケース>
  製造業者(A)  10,000円(税抜価格9,091円)でBに販売
          ⇒Aは税金909円を納税します
          ⇒粗利は9,091円

  小売業者(B)  Aから10,000円で仕入れた商品を税抜価格15,000円に
          税金分1,500円を加算して16,500円で販売
          ⇒Bは消費者に税金分だと言って受け取った1,500円のうち、
           仕入価格に含まれる税金分909円を差し引いた591円を納税
          ⇒粗利は5909円

  消費者(C)   Bから商品を16,500円で購入
          ⇒Cは納税しないが、税金分だとして1,500円負担しています

  合計納税額  Aの909円+Bの591円=1,500円

 

 このケースを消費税がない場合と比較すると、Aは粗利が909円減り、Bの粗利が909円増えています。合計納税額は変わりません。これは、力の弱いAは税金分を転嫁できていないのに税金を払わされ、力の強いAは消費税がない場合と同じ価格で仕入れているのに消費税分を消費者に払わせることによって利益を増やしているのです。税務署は消費者に売る金額が変わらない限り、流通段階のどこかの段階の事業者が泣くことになっていても同じ税金を徴収できます。

 

 次に製造業者(A)は小売業者(B)に対して強い立場のため、消費税を上乗せすることができるが、Bは競合他社との価格競争があって消費者(C)に消費税分を転嫁できない(消費者に対して弱い立場)場合を考えてみます。

 

<Bが消費税分を上乗せ出来ないケース>
  製造業者(A)  税抜価格10,000円に税金分1000円を加算して11,000円でBに販売
          ⇒Aは税金1,000円を納税
          ⇒粗利は10,000円

  小売業者(B)  Aから11,000円で仕入れた商品を15,000円(税抜価格13,636円)で販売
          ⇒Bは消費者から税金分1,363円を受け取ったものとして、
           仕入価格に含まれる税金分を差し引いた363円を納税
          ⇒粗利は3,637円

  消費者(C)   Bから商品を1500円で購入
          ⇒Cは税金分として1,363円負担したことになっている

  合計納税額  Aの1,000円+Bの363円=1,363円

 

 このケースを消費税がない場合と比較すると、Aの粗利は変わりませんが、Bの粗利は1,363円減っています。消費者は消費税がない場合と同じ金額で購入出来ているので、実際は消費税を負担していませんが負担したことにされています。力の弱いBが消費税分の1,363円を全部をかぶっています。税務署は小売販売価格に応じた税金をしっかり徴収できています。実際には、流通経路は多段階になることが多く、その多段階の業者のうちでのどこかで力の強い弱いによって消費税を巡ってこのような損や得が生じてしまうのです。

 

 ここまで、理解しやすいように、慣れている「消費税を上乗せする」という説明の仕方してきましたが、実際の取引においては、税抜価格という絶対的なものがあってそれに消費税が加算される訳ではないのです。消費者はレシートや領収書に「本体価格xxx円、消費税xx円」のように書かれているのを見慣れているので、間違ってしまうのです。消費者も含めて、取引において重要なのは実際にいくらで買えるかであって、その内訳に税金が含まれているかどうかは買う側にとって本当はどうでもいいことです。例えば、上の例で消費者が出費を15,000円以内に抑えようとするなら、(税込みで)15,000円にならないか交渉すればいいはずです。しかし、本体価格+消費税という考え方に慣らされてしまっているために、面倒にも頭で計算して(10%の消費税があるから13,500円以下かな)、あるいは電卓をたたいて(15,000円÷1.1=13,636円)、税抜き金額で交渉したりします。これは本当はおかしなことです。事業者間の取引でも、重要なのはいくらで売れるか・いくらで買えるかです。交渉の結果、概ね値段が決まれば、請求書に消費税を記載する必要があるため、切のよい税抜き価格にするよう微調整したりします。税抜価格(本体価格)が重要なのではなく、実際の販売価格が重要であることは、国税庁のHPにある消費税の計算方法をみれば、消費税は売上金額の100分の10、となっていることでもわかります。税抜金額や消費税額は実際の販売金額から逆算して計算されるものなのです。

 だから、実際には消費税の上乗せを認める・認めないというより、売る側が自分の消費税負担のことを考えて10%の値上げを申し入れるが、力が弱い場合は5%の値上げしか認められなかったり、まったく値上げを認められなかったりするということです。上の例では、簡単のためにまったく値上げを認めないケースを書いていますが、力の強い・弱いに従って損と得が生じることは変わりありません。ただ、その金額が変わるだけです。

 

 以上からわかるように、日本の消費税は、消費者の負担があるだけでなく、力の強い者が得をして力の弱い者が損をする強者優遇の制度なのです。

 

 なお、この制度でもっとも大きな利益を得るのは巨大な輸出事業者です。それは、販売先が海外なので受け取った消費税は0円ですが、国内での仕入には消費税分が含まれているとされるからです。納税すべき金額は0円から仕入価格に含まれる消費税分を差し引くのでマイナスになりますが、このマイナス分は税務署から還付金としてもらえるのです(輸出戻し税)。例えば、トヨタ自動車の場合は6,000億円もの還付金を受け取っているという試算もあります。輸出事業者が仕入先へ消費税分をきちんと支払っているのなら、輸出戻し税という仕組みは理解できますが、力の強い巨大企業は仕入先の納入価格を出来るだけ抑えて購入していると想像できます。いくら安く仕入れてもその中に消費税分が含まれているとみなされるため、必ず還付金が受け取れます。

 

 私は、この輸出戻し税という仕組みを知って、もしどこかの会社から給与をもらっている人が事業者であると言えたらどうなるか、ということを考えてみました。給与をもらっている人は自分の労働力を売っている販売事業者と考えられます。では、売るための労働力はどのようにして仕入れているのでしょうか。労働力は、いろいろな商品やサービスを買って生き続けることによって得られていると考えられるので、生きてゆくために買った商品やサービスを労働力を売るために仕入れていることになります。もちろん、生きてゆくために買った商品やサービスは労働力を売るためだけに使う訳ではありません。生活しているのは、労働力を売るためだけでなく、人生を楽しむためでもあります。従って、生きてゆくために買った商品やサービスのある部分は仕入から除く必要があります。これは、事業者の自家消費(仕入れた商品を売らずに自分で消費してしまうこと)と同じです。労働力を売るために生活している部分と人生を楽しむために生活している部分を簡単に分離することはできませんが、労働力を売るために生活している部分があることは確かです。しかも、貧しい人ほどその部分は大きいでしょう。


 このことを踏まえて、事業者であると仮定した給与所得者に消費税の仕組みを適用してみます。給与には消費税は上乗せされていませんから、受け取った消費税は輸出事業者と同じように0円です。一方、労働力を売るために生活している部分で買った(仕入れた)商品やサービスには消費税が含まれています。だから、受け取った消費税(0円)から仕入に含まれる消費税を差し引くと必ずマイナスになり、その消費税分を税務署から還付してもらえることになります。


 しかし、給与所得者は事業者でなく単なる消費者と考えられているため、支払った消費税を返してもらうなんてことは出来ません。消費者の圧倒的多くは給与所得者であるが、消費税は、人生を楽しむために生活している部分に課税する(消費税以前にあった物品税はこの考え方だろう)だけでなく、働く(労働力を売る)ために生活している部分(貧しい人ほどこの部分が大きい)に対しても課税する悪辣非道な税金だと、私は思います。

 

●免税事業者について
 消費税は上に述べたように、本来は消費者だけに負担を強いるはずの税金であるにもかかわらず、現実には弱い立場の事業者にそれとは別の負担を強いる(その裏で強い立場の事業者に不当に儲けさせる)制度であることがわかります。弱い立場の事業者とはどういう事業者でしょうか。事業規模の小さな零細事業者だろうと想定されます。このため、国は消費税の導入にあたり、申し訳のように年間売上3,000万円以下の事業者の消費税納税を免除しました。その後、免税基準点は引き下げられ、現在は年間売上1,000万円以下の事業者が免税事業者になっています(実際はさらに色んな条件が付けられて免税事業者を少なくしていますが、それは省略します)。

 

 免税事業者となってる零細事業者はどういう事業者でしょう。2つに分けて考えると分かりやすいです。一つは、零細な小売事業者です。そしてもう一つは別の事業者に商品やサービスを提供する下請け事業者や個人事業主です(この2つが重なっている場合もあり得ますがややこしくなるので省略します)。

 

 零細な小売事業者は、仕入先から消費税分を上乗せされて消費税導入前より仕入価格が上がるにもかかわらず、値上げして消費者に消費税全額分を払ってもらうのが難しい場合があると想定されます(正札価格ではなく値引したりした結果の実際の販売価格の話です)。例えば、10,000円で仕入れた商品を15,000円で売っていた場合、消費税導入後は仕入値が11,000円に上がるので税務署に消費税を払うとすれば16,500円で売らないと同じ利益を確保できません。しかし、値上げできないケースや値上げしても16,500円より安い価格で売らざるを得ないことが零細小売業者では起こりがちだと考えられました。たとえ免税事業者になっても、全く値上げしないと仕入値が1,000円上がっているので、利益は1,000円減少することに注意が必要です。免税事業者になっても、同じ利益を確保するには、1,000円高く16,000円で売らなければならないのです(その場合、レシートに消費税分を書くとすれば、本体価格14,546円、消費税1,454円と書かざるを得ません)。免税事業者のことを知っている人で、16,000円に値上げされたのを知って、「免税事業者なのに値上げして消費税を自分の懐にいれている」と言う人がいますが、これは完全な誤解です(16,000円で売っても利益は増えません)。

 もし免税事業者になっていて、16,500円(本体価格15,000円、消費税1,500円)で売れば利益が500円増えるので「益税」が発生しますが、益税は1,500円ではなく500円です。益税は本体価格の3.3%に過ぎません。苦しい商売をしていると思われる零細小売事業者にこの程度の益税が発生しても、私は目くじらを立てる気にはなりません。

 

 もう一つの下請け事業者や個人事業主の場合は、消費税導入に伴って、商品やサービス(仕事)の納入先に消費税分を値上げしてもらうのが難しい場合が想定されます。それで零細な下請け事業者や個人事業主は免税事業者にされたわけですが、納入先は下請け事業者や個人事業主が免税事業者であることが容易に想像できるので、消費税分の値上げは認めないと、ほぼ確実に想像できます。従って、このような免税事業者に益税が発生して、消費税導入前より利益が増えるなんてことはまずありえないでしょう。ここで、注意しないといけないのは、納入先は消費税分を上乗せして仕入れていなくても、仕入れ価格には消費善分が含まれているとして自分が納める税金から差し引くことができることです(控除できるのは仕入価格の110分の10ではなく110分の7.8ですが)。この結果、免税事業者ではなく、免税事業者から仕入れている事業者に益税が発生します。国税庁のHPには次のように書かれています。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6455.htm

 

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No.6455 免税事業者や消費者から仕入れたとき

対象税目
消費税

 

概要
消費税の納付税額は、課税期間中の課税売上げに係る消費税額からその課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額(仕入控除税額)を控除して計算します。

 

この場合の課税仕入れとは、事業のために他の者から商品などの棚卸資産仕入れのほか、機械や建物等の事業用資産の購入または賃借、原材料や事務用品の購入、運送等のサ-ビスの購入などをいい、その課税仕入れに係る相手方が課税事業者であることを要件としていません。

 

したがって、免税事業者や事業者ではない消費者から仕入れた場合も、仕入税額控除の対象となることから、その支払った対価の額は消費税および地方消費税込みの金額とされますので、その対価の額の110分の7.8(軽減税率の適用対象となる課税仕入れについては108分の6.24)相当額は、消費税額として仕入税額控除を行うことができます。

 

具体例
例えば、免税事業者である下請業者に外注費100万円を支払ったとします。この100万円の支払の中には、その110分の7.8に相当する70,909円の消費税額が含まれているものとして、仕入税額控除を行うことになります。このことは、事業用の建物や器具などを事業者でない人から購入したり賃借する場合も同じです。

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 国税庁のこの具体例で考えると、免税事業者から仕入れているこの事業者は、自分が売る時に受け取っている消費税分から70,909円差し引いた金額を納税すればいいのです。免税事業者には70,909円上乗せして支払っていないことはほぼ確実なので、この事業者は消費税をダシにして70,909円儲けたことになります。

 ここも消費税が強い者を儲けさせる仕組みであることが表れています

 

インボイス制度とはどういうものか
 インボイスとは何か。もともとの英語の Invoice は「送り状または明細付き請求書」のことですが、消費税に関して10月1日から導入されるインボイスというのは国税庁が「適格請求書」と呼んでいるもので、売手が買手に対して適用消費税率や消費税額等を伝えるものです。インボイス制度は、この適格請求書(インボイス)を使って消費税の納税を管理しようとするものです。適格請求書についてのポイントは、次の2つです。

  (1)適格請求書を発行できるのは課税事業者だけ
  (2)事業者が自分が支払った消費税分を自分が納める消費税から差し引くには、
     仕入先から適格請求書をもらう必要がある

 

 これは、免税事業者とそこから仕入れる事業者に大きな影響を及ぼすもので、(1)は免税事業者は適格請求書を発行できないことを意味し、(2)は免税事業者から仕入れる事業者は仕入価格に含まれる(と考えられる)消費税分を自分の納める消費税から差し引けなくなるということです。

 国(国税庁)はインボイス制度の目的を、複数税率(現在は10%と8%)が混在する仕入について正しい消費税の納税額を算出するため、と称していますが、実質的には現在は免税事業者から徴収していない消費税を新たに徴収しようとするものです。その意味では増税に他なりません。この制度の悪魔的なところは、免税事業者を無くすのではなく、現在の免税事業者は免税事業者のままでいることもできるし課税事業者に変更することもできる点です。すなわち、免税事業者がそのまま免税事業者であり続ければ、免税事業者の消費税分の税金を免税事業者の販売先事業者から新たに徴収できるし、免税事業者が課税事業者に変わってくれればその事業者から消費税を徴収できるという、国税庁が「お前らで喧嘩してでもどちらにするか決めてくれ、どっちにしても俺(国税庁)は今まで取ってなかった税金をお前らのどちらからかはちゃんと取れるんだ、えへっへ」とでも言っていそうな制度なんです。これでインボイス制度の本質的なことろは説明出来ているはずですが、ちょっとわかりにくいと思うので、説明の仕方を変えてみます。

 

 免税事業者は、課税事業者になって新たに消費税を納税するメリットは何もないので、当然そのまま免税事業者を続けたいと思うでしょう。でも、そうすると、納入先の事業者は税金が増える(仕入に含まれるとして自分が納める消費税から差し引いていた消費税分が差し引けなくなる)ことになります。良心的(?)な納入先ならば、下請けに税金を払わせるのはかわいそうだから、うちの税金が増えるのは我慢しよう、となるかもしれません。しかし、もっとありそうなのは、下請けに対して、課税事業者になるように圧力をかけることでしょう(あるいは自分が新たに支払うことになった税金分を差し引いた金額を納入価格にするように強いるでしょう)。
 ここで免税事業者は迷います。課税事業者になれば消費税を取られるし、断れば納入先から仕事をもらえなくなる(商品を買ってもらえなくなる)かもしれない。かといって、納入価格を税金分値下げするのは消費税を払うのと同じことだし。これがどう決着するかは分かりません。私の想像では、仕方ないので課税事業者になった上で、なんとか少しでも納入価格を上げてもらうように交渉する下請け事業者が多いのではないかと思います(その成功率は低そうですが)。

 

 重要なのは、いずれに決着しても下請け事業者か納入先事情者かどちらかあるいは両方の利益が圧迫されるということです。しかし、国(国税庁)は必ずどちらかかから免税にしていた消費税を新たに徴収できるということです。

 

 国税庁は制度変更に伴う緩和措置(増える負担の軽減措置)を期間を区切って設けるようにしていますが、あくまでも負担の軽減に過ぎず負担が増えることは変わりありませんし、これはあくまで経過措置なのでいずれフルに負担がかかってきます。

 

 免税事業者が課税事業者に変わるということは、それが仕入のない末端の事業者(例えば個人事業主はみんなそうです)であれば、経過措置終了後は、今の税率のままでも売上(収入)の11分の1(9.1%)の税金を納めなければなりません。しかもこれは法人税(または所得税)の他に新たにかかる税金です。新たに9.1%の増税をされると、零細事業者やフリーランスの人は仕事が続けられなくなることも多いのではないかと危惧します。

 

 小さい町工場のような零細事業者がつぶれるのも問題ですが、文化・芸能・出版・報道等の分野で働いているフリーランスの人たちが立ち行かなくなるのは個人の問題ではなく大きな社会的損失になりかねないと思います。