辺民小考

世の中の片隅に生きていますが少しは考えることもあります ― 辺民小考

日本国憲法を読んで自分なりに考えた(第3回:第一章 天皇(その1)、第一条~第二条)

 第3回から日本国憲法の本文を考えてゆく。先ずは「第一章 天皇」です。この章は第1条から第八条まであるが、考えることが多いので複数回に分ける。どう分けるか。内容の関連性から次の3つに分けるのがよいと思った。

 1.第一条~第二条 天皇の地位に関する規定
 2.第三条~第七条 天皇の行為に関する規定
 3.第八条     皇室の財産に関する規定

 今回はこのうちの「第一条~第二条(天皇の地位に関する規定)」について考えたことを書きます。

 

==== 第一章 天皇 == 第一条~第二条 ================
天皇の地位と主権在民
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

皇位世襲
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
=======================================

 

<第一条>
天皇の地位と主権在民
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 

 第一条には次の3つのことが書いてある。
 (1)天皇は「日本国の象徴」である
 (2)天皇は「日本国民統合の象徴」である
 (3)天皇の地位は日本国民の総意に基く
 
 まず、(1)を考える。一般的に国家の象徴と考えられるのは国旗、国章、国歌などであるが、その対象が人の場合は対外的に国を代表する「元首」であると考えるのが妥当だろうと思う。天皇が元首であるかどうかは学説でも政治家の間でも議論があることは承知しているが、それは元首の定義の問題だ。天皇は、憲法の規定に基づき、対外的及び国内的な政治的役割を持っていることは明らかであり、少なくとも対外的な役割は他の国の元首が持つのと同じ役割であるものが含まれる(例えば第七条の九に規定される「外国の大使及び公使を接受すること」)。元首が対外的にあるいは国内的にどういう権限を持ち、どういう機能を果たすかは国によって様々であり、日本の天皇は、君主が儀礼上の存在となっている立憲君主制国家(例えばオランダ、ノルウェーデンマークなど)の元首(国王・女王)に近いと思う。近いだけで同じではないが。

 

 以上のように、私は天皇を一種の「元首」と考えたが、そう考えるかどうかは実はどうでもよい。重要なことは、天皇憲法で規定される役割を実行するだけの存在であると考え、その規定を厳密に適用してみだりに拡大することのないようにすることだろうと思った。

 

 また、元首に近いと思った関連で、以下のようなことも考えた。日本を立憲君主国と呼び天皇を君主と考えるのは、日本国憲法下の天皇大日本帝国憲法時代の天皇とは全く違っているため、著しい違和感がある。ところが、国政において対外的にも国内的にも一定の役割りを果たしているので、そのことを無視できない。国のありようと天皇の果たしている役割が、世界的に見て独特であると考えて、国内的には使う言葉をユニークなものにしている。王国でも共和国でもないので正式国名を単に「日本」とするのは英語に翻訳しても「Japan」となり困らないが、「天皇」は英語では「Emperor」(すなわち「皇帝」)とするしかない。「王族」や「王室外交」と呼ばず「皇室」や「皇室外交」と呼んでも、英語で「Imperial family」や「Imperial diplomacy」となるので、外国から見れば、皇帝がいる国と認識されているだろう。
 
 日本国憲法下の日本では、天皇は歴史的には各国にあった「皇帝」とは全く違った存在であるが、かつての皇帝に対するかのような振舞い(言葉使い、態度など)をかなり多くに国民が行うことに、私は違和感を感じている。天皇(や皇族)をその地位にあるが故に尊敬することは私にはできない。私は人をその地位ではなく、その行いによって尊敬したりしなかったりするべきだと思っている。(余談になるが・・・。国の象徴である国旗や国歌には一般的には敬意を払うべきだと思うが、今の日本の国旗や国歌が大日本帝国憲法時代から継続したものであるため、私は素直に敬意を払うことができない。)

 

 (2)は考えても意味が分からなかった。国民統合とは国民を一つのまとまりにすることなので、「日本国民統合」の意味は分かる。分からないのは、それの「象徴」ということだ。理解するヒントがあるかと思って、ネットで解説を探してみたが納得のできる説明は見つからなかった。但し、ある論考(『「象徴」の由来および普及をめぐって』)で、戦前の日本でも天皇を「国民統合の象徴」と捉える天皇観があったことを知って考えたことはある。


 戦前の日本においては、天皇を「国民統合の象徴」と捉えるのは、強いられたものであったにせよ国民の実態を表すものとして結構当たっていたのではないかと思った。私は、今の日本を念頭において「日本国民統合の象徴」を分からないと言ったが、日本国憲法制定当時には天皇に対する国民の意識は戦前からのものが広範に残っていて、当時の実態を踏まえた表現かもしれない。その意味では、(2)は戦前の残滓であるような気がした。

 

 (3)については、こんなことを考えてしまう。天皇の地位は日本国民の総意に基くということは、もし国民の過半数天皇なんていらないと思えば無くなるものだと言っているように読める。しかも、国民の総意は例えば国民投票で示すこともできるので、憲法改正しなくても可能であろう。しかし、現在の憲法のままで天皇を無くしたら、憲法で規定している天皇の役割は誰も果たせなくなってしまう。ということは、やっぱり天皇制廃止は憲法改正するしか方法がないようだ。

 

<第二条>
皇位世襲
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。

 

 第二条に書いてあることは2つ。
 (1)天皇の地位(皇位)は世襲とする
 (2)皇位の継承は皇室典範の定める内容によって行う
  ・皇室典範は国会の議決によって作る

 

 (1)については、「世襲」の意味が気になった。辞書には、「嫡系の子孫が代々うけつぐこと」(広辞苑)、「子孫が代々受け継ぐこと」(大辞林)、「祖父・父から子や孫へと受け継ぐこと」(新明解)などと書いてある。この3つを見ても、嫡系に限定してあるかどうかや、継承者を子や孫に限定するか広く子孫とするか、について違いがある。また、世襲と言われる制度は天皇だけでなく、江戸時代の将軍や大名から商家や伝統芸能まで沢山あり、商家や伝統芸能などではその制度が現在まで続いている(「世襲議員」なんて使い方もある)。それらの世襲制度では、血縁での継承を基本にしつつも養子や娘婿への継承も広く行われて来た。世襲される家や家業がよりよく継承されるために、むしろ血縁より継承する者の適性・能力を重んじているよう思える場合も多い。「世襲」という言葉は、このように非常に幅広い意味でつかわれている。憲法は法律の一つなので、一般的な国語的意味でなく法的な解釈が必要である。しかし、「世襲」という言葉は現在の法律では多分憲法以外にないので、裁判で解釈が争われたこともなく、専門家の間で共通に理解された法的解釈はないだろうと思う。


 また、この条文で規定しているのは皇位の継承についてなので、天皇以外の世襲については関係ないとも言える。では、皇位世襲について法的に確定した解釈があるかと言えば、ないと思う。現状での皇位世襲の内容は、(2)で規定されている皇室典範で決められている。しかし、皇室典範は、憲法の「世襲」の法的解釈が許容する範囲で制定されるものであり、皇室典範の規定が憲法の「世襲」の法的解釈ではない。歴史上の皇位継承を調べても、また帝国憲法での皇位継承規定を見ても、現在の憲法での世襲の意味は決められないし、決めるべきではないと思う。何故なら、日本国憲法は過去の天皇制を否定して作られたものであるからだ。それでも日本の「伝統」を踏まえて解釈すべきという人もいる。しかし、伝統と言っても時代によって皇位継承の在り方は変わってきている。「伝統」を言う人は、自分が解釈したい内容の例を過去の中に探しているに過ぎないように私には思われる。

 

 あれこれ考えた結果、私はかなり極端な思いに至った。日本国憲法主権在民の理念を徹底させる方法は、(1)の「世襲」を養子を排除しないものと解釈し、皇室典範を改正して養子の規定を設け、しかもその養子は天皇の血統でなくてもよいとすることだ、と思った。これは、実質的に天皇制を廃止することになるが、憲法上の天皇の役割りはすべて問題なく行えるので、憲法改正せずに実行できる。天皇制廃止を考える人も、多分こんな方法は考えていないだろうが。

 

 (2)については意味は明確だ。なので、思いは(2)の条文解釈ではなく皇室典範の方に向かう。皇室典範の条文というより、皇室典範で規定されている皇位継承のについての議論だ。一番大きい論点は、女性天皇を認めるかどうか。これについての私の意見は明確だ、憲法の理念から考えて男女同権は当たり前なので、当然、女性天皇を認めるべきだと思う。


 (1)に関して最後に書いた、皇室典範で養子を認めて実質的に天皇制を廃止する、ということは現状でそれを求めるということではない。将来、もし国民の大多数が天皇制廃止を求めるようになるなら、そんな方法もあるかもしれないということに過ぎない。但し、皇位継承の安定性(皇位継承が出来なくなれば憲法で規定する天皇の役割りが実行できなくなるのでこれは憲法改正しない限り絶対に必要)を考えれば、皇統の範囲内で養子を認めることは行ってもいいと思った。